足利の技術が世界を変える。1/1000ミリの精密加工への挑戦。
菊地歯車株式会社
代表取締役社長 菊地 義典
1969年栃木県足利市生まれ。1993年早稲田大学理工学部を卒業。大手重工メーカーから内定を得るも、大学4年時に交通事故に遭ったことで、祖父が創業した菊地歯車株式会社に入社。2000年専務取締役、2005年代表取締役社長に就任。
※所属・役職等は取材時点のものです。
足利の伝統産業「機織り屋」からスタートし、歯車製造専門への転換。
当社は1940年に栃木県足利市で私の祖父が創業しました。創業当初は足利の伝統産業である機織り工場を営んでいましたが、戦時中の需要拡大を見込んで工場の片隅で始めたのが歯車製造です。
その後、終戦間際に軍から鉄の供給を求められ、機織り機械と歯車機械どちらかを手放さなければならなくなりました。迷った末に機織り機械を解体し、軍に提供するために玄関に並べたのですが、それと同時に終戦を迎えることとなりました。結果、歯車機械1台だけが残り、戦後の食い扶持を稼ぐために歯車製造専門とならざるを得なかったのです。
そのような状況でしたから、いただける仕事に対してはNoと言わずに、地道に歯車製造を行っていました。いただいた仕事の中には、加工が難しい歯車もあるわけです。そうした顧客の要求に対してどうやって応えていくか、それをやり続けてきた。そのことで少しずつ技術力が蓄えられ、結果、自動車や航空宇宙分野向けの歯車の試作という高度な技術力が求められる事業へと繋がったのだと思っています。
現在では5500種類に及ぶ歯車を取扱い、なかでも主要取引先である自動車メーカーや重工メーカーに納品している歯車には、当社にしかできない技術が詰まっています。
レクサスLSシリーズに求められる1000分の1ミリの精密加工。
レクサスの最高級モデルLSシリーズにおけるトルセンユニットの部品に使用されている歯車は、当社が100%供給しています。ハイブリッド車となりエンジン音が格段に小さくなったことで、駆動部品である歯車のかみ合わせが少しでも悪ければ、音が目立ってしまいます。そこで求められるのは従来の誤差の半分以下である1000分の1ミリ単位の精密加工技術です。
その実現に力を発揮したのが、当社の機械加工特級技能士9名を中心とした技術者たちでした。特級技能士は、工場長が務まるような熟練した知識や技術が求められる資格なのですが、社員が積極的に知識技術の習得に力を入れた結果、取得できたのだと思っています。もしかすると、資格取得の報奨金を20万円にしたことも影響したのかもしれませんが (笑)。
技術者には品質だけではなく、コスト管理も求める。
当社では毎月、班ごとに貸借対照表や損益計算書を提出してもらい、会議をしています。簡易的なものではありますが、技術者にとって収支を意識したコスト管理は非常に重要なことです。
私は大学4年時に交通事故に遭い足を怪我していたものですから、当社に入社してはじめの配属は総務部でした。そこで伝票を書いた経験もあり、「技術者といえども損得勘定なしではダメだ」と身をもって体験していました。どれだけ良いものを作ることができても、コスト管理なしにはビジネスとして成り立たないのです。
逆を言えば、その感覚を全社員が持っていれば、将来、分社化などにより会社を任せることになっても立派な経営ができる可能性が高まります。菊地歯車としても事業展開にさまざまなオプションが加わることになる。ですから、毎月の会議は”経営者養成の場”でもあると思っています。
航空宇宙事業を分社化。新たな成長分野を目指す。
2015年にフランスの航空機エンジン製造大手のSAFRAN AIRCRAFT ENGINES社とチタンアルミ製タービンブレードの長期供給契約を締結、日本の中小企業としては初めて、直接取引を実現させました。2009年にJISQ9100(航空宇宙産業の品質管理規格)を取得して以来、海外のエアショーなどに出展してきたことが実を結んだ瞬間でした。
こうして航空宇宙事業が軌道に乗ったのは、社員みんなの頑張りがあってこそです。2016年に当社の航空宇宙事業を分社化させることができましたので、今後、菊地歯車としては、自動車や油圧機器関連などの他、新たな成長分野へ仕事の幅を広げていくつもりです。
歯車はなくならない。もっと難しいことにチャレンジしたい。
昨今はロボットやAI、IoTなどイノベーションが激しい時代になってきましたが、実際にモノを動かす歯車はなくなりません。当社は急成長をする必要はないと思っていますが、安定した成長を維持継続して、社員にしっかり還元できる状態にしていきたいと思っています。そしてチャンスがあれば、会社分割など組織再編も含めて新しいこともしていきたいです。
会社設立以来、「難しいことに挑戦する」ということが当社のDNAですから、そのためにも、同じマインドを持つ人を採用したいと思っています。これまで経営が厳しいときにも毎年採用は続けてきましたから、その方針はこれからも変わりません。