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チーズガーデンを栃木の代表ブランドに育て、日本の誇るべき食文化に光をあてる。

株式会社庫や
代表取締役社長 冨田 智夫

更新日:2023年11月29日

1987年大学を卒業後、専門商社の蝶理株式会社に入社。92年、兼松株式会社に転身し、繊維部門でOEM事業やブランドビジネスに携わる。2007年にはアメリカに本社を構えるスポーツ用品企業・ニューバランスの日本法人、株式会社ニューバランスジャパンに入社。営業本部長、常務執行役員などを歴任後、2012年に社長に就任。2015年からはニューバランス本社VP職を兼務。2019年3月、同社を退職。1年間の休養の後、投資会社の株式会社アドバンテッジパートナーズから誘いを受け、株式会社日本銘菓総本舗の代表取締役、およびその傘下である株式会社庫やの代表取締役社長に就任する。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

海外を駆け回る仕事から、ドメスティックなビジネスへ転身。

庫や(くらや)の創業は1984年。当社の代名詞となっている「御用邸チーズケーキ」の生産・販売を開始したのは、1994年です。以来、「御用邸チーズケーキ」は着実に支持を獲得。年間約500万人の観光客が訪れる那須塩原を代表するお土産に成長しました。那須高原にある本店「CHEESE GARDEN」には、県内外から多くの観光客が訪れています。

私は、商社で海外を飛び回る暮らしを20年続けた後、外資系日本法人の社長に就任し、約7年間経営に携わりました。そんな私が2020年、庫やへ来ることになったのは、投資会社のアドバンテッジパートナーズから誘いを受けたからです。

同社は、地方で愛されている銘菓・名産品メーカーをグループ化し、投資を通じて成長させようと「日本銘菓総本舗構想」というプロジェクトをスタートさせていました。庫やはオーナーから事業承継を受け、第一号の傘下企業となったところでした。

私はこの構想に魅力を感じました。日本には庫やのように独自の強みを持ちながら、後継者問題などで衰退の一途をたどる銘菓や食文化があります。少子化で市場縮小する日本において、それぞれが単体で成長戦略を描くことは困難ですが、このような大きな枠組みの中でなら、投資を集めて成長を図れるかもしれません。

そこで、私が日本銘菓総本舗と庫やの社長を兼務することになりました。自分が今まで積んできた海外市場でのキャリアとはまったく異なる、ドメスティックなビジネスに取り組めることにやりがいを感じていました。

観光地ビジネスから脱却し、栃木を代表するブランドを目指して。

ところが就任早々、コロナ禍に見舞われます。観光地需要に頼る当社の売上は大きく落ち込み、成長戦略を描くどころではありませんでした。

度重なる緊急事態宣言に、商品の製造・在庫コントロールに腐心しつつも、まずは管理会計の導入や、製造・販売・管理の部門ごとにKPIを設定するといった、採算意識を明確にした経営に切り替えていきました。30年近くオーナー経営だった庫やにとっては、これだけでも大きな変化だったと思います。

コロナ禍の間はダウントレンドもやむなしでしたが、いずれ上昇を目指さなければいけません。そのために必要なことは、那須に頼った観光地ビジネス以外のモデルの構築です。「那須のお土産」から脱却し、「栃木の洋菓子」となることを目指しました。

私が来た当初、庫やは那須に集中して店舗を持ち、那須エリアで売上の70%を上げていました。それ以外には、東京、大阪、名古屋など大都市のデパ地下に出店していたものの、デパートもコロナ禍で食品売り場がクローズされるなど客足が鈍り、それまでニーズのあったビジネス需要も下火となっていました。

まず取り組んだのは、出店戦略の見直しです。宇都宮など栃木県内の他市部への出店と、加えて関東近県への出店を進めました。2022年度には郊外型を中心に5店舗を出店。今後も、当面は栃木県および周辺エリアで1~2店舗、関東圏に3店舗くらいのペースで出店を続けるつもりです。

2021年には、宇都宮市内で洋菓子店「グリンデルベルグ」を運営するトアヴァルト有限会社をグループに迎え入れました。県央に2店舗を持ち、地元に愛される老舗の洋菓子店と一緒になることで、那須だけでなく栃木の洋菓子メーカーとしての足固めができるとにらんだのです。

グリンデルベルグは、宇都宮市内に製造工場も持っています。ここを仲間に加えたおかげで、宇都宮を中心とした商品展開がスムーズになりました。また、パティシエがいる洋菓子工房では、商品のカスタマイズも素早い対応が可能に。栃木県NO.1の洋菓子店となるために、製造・販売の両面を強化できたと思っています。

カフェ併設型店舗の出店で、県内・県外への出店を加速させる。

出店戦略とあわせて、出店形態とプロダクツのバリエーションを増やしました。従来は土産用の箱菓子を売る物販店がほぼすべてでした。しかし、那須から飛び出して他の地域で勝負するには、土産としてだけではなく、庫やの洋菓子をこれまでとは異なる形で召し上がっていただくことが必要です。そこで、カフェ併設型の店舗に力を入れています。

カフェとなると、店内で焼いた商品や生ケーキなど、商品が増やせます。ドリンクメニューをこまめに変えるなど、カスタマイズも柔軟です。店内で商品を焼いて提供するなど、ライブ感のある演出を意識した店も出店しています。

カフェを併設したことで、デパ地下にこだわる理由はなくなりました。今後は、郊外のショッピングモールに出すような50~60坪規模のカフェ併設店舗も出す予定です。いくつかのモデルを用意しておくことで、立地や条件に合わせた展開が可能になります。

那須観光に来た県外のお客さまのうち、15%くらいがチーズガーデンに寄っていただいている、というデータがあります。県外出店では、そうしたお客さまをターゲットとしたエリアを狙います。

那須に観光に来て一度買ったことのあるお菓子が身近な店舗で買えるとなると、再度寄っていただける確率が高まるのです。そうすると、群馬、茨城、埼玉、千葉、神奈川、東京郊外といった北関東を中心とする関東一円が直近のターゲットになりそうです。

自家消費ニーズにも柔軟に対応することで、業績は拡大。

ブランドに関しても、いろいろなチャレンジをしていきたいと思います。庫やは大黒柱であるCHEESE GARDENブランドがあるほか、グループ化したグリンデルベルグのブランドや、チョコレートのブランドも保有しています。

これらに匹敵する新ブランドを立ち上げたいという思いもありますが、さすがに一足飛びにはいきません。長期的には構想を温めながらも、CHEESE GARDENブランドをより盤石にするのが優先順位の高いテーマです。

そういった点でも、小ロットに対応できる宇都宮の工場が使えるようになったのは大きなプラスです。シーズンに合わせた限定商品のリリースや、既存商品のカスタマイズをタイムリーに行いながら、CHEESE GARDENブランドのラインナップを拡充していきます。

コロナ禍で観光地土産の需要は減りましたが、自家消費は伸びました。外出も難しくなり、せめて美味しいものを食べようという需要が拡大。コロナ禍が一段落した現在も、その需要は落ちていません。

こうしたニーズに対応するためにも、商品のカスタマイズは欠かせません。ビジネス需要の場合は日持ちも大事ですが、自家消費の場合、賞味期限はそこまで問題になりません。「買って新鮮なうちに食べたい」と1~2日で食べきってしまい、また欲しくなったら買いに行けばいいと考える人が多いからです。逆に、一人か家族で消費できるよう、サイズは小ぶりにする必要があります。

今日は、観光地ニーズも戻ってきています。従来の観光地での売上に、自家消費に対応した分の売上がアドオンできる体制となったことで、業績の伸びは加速しています。

ブランドに対する誇りと栃木を愛する気持ちが事業推進の原動力。

庫やにやってきて感じたのが、従業員の自社に対するロイヤリティの高さです。庫やは自社製造にこだわっており、現在も商品の8割は自社で製造しています。自分たちの手で作っているからこそ、従業員は誇りを持てるのだと思います。

創業者が中心となって作り上げてきたこの誇りは、庫やのブランドビジネスにおける根幹です。製造設備を自動化させて、従業員の負担を軽減する努力は大事です。しかし、手作りにこだわる従業員の姿勢は尊重していきます。

また、社風の良さ、温かさも感じます。それは、地元の人が大勢働くことによって醸し出される、栃木の県民性かもしれません。この風土は、今後も大切にしていくべきだと思います。こういった庫やの誇りや社風に共感してくれる人材と出会いたいですね。

もっとも馴染みやすいのは、やはり地元・栃木の出身者でしょう。栃木の風土・文化に子どもの頃から触れており、今は東京など県外で働いている。都市圏でのビジネス観も持ち合わせながら、栃木の良さも分かる方は、スムーズに溶け込めます。もちろん、出身者でなくても栃木を愛し、チーズガーデンを魅力に感じてくれる方なら大歓迎です。

もっとも重要なのは、「自分の作っているもの、ブランドに誇りを持てるか」ということです。「自分の生み出すプロダクトが好き」「この商品を作っている会社が好き」という思いがなければ、消費者にブランド感は伝わりません。

洋菓子のことはわからなくとも、製造に携わる人の覚悟に触れれば、このブランドをいつか誇りに思うようになるでしょう。その想いが、庫やのビジネスを前進させる原動力なのです。

編集後記

チーフコンサルタント
鎌田 真知子

インタビューに伺った日は、平日であいにくの雨模様であったにも関わらず、本店CHEESE GARDENは驚くほど多くのお客さまで賑わっていました。

那須では圧倒的な知名度を誇るCHEESE GARDENが、この数年の間に那須以外でも見かけるようになった背景にこのような戦略があったことを改めて理解しました。

地方で育んだものの価値を大事にしながら、それを武器にして外に出る。グローバルで活躍してこられた冨田社長が描かれているこれからの庫や(そして日本銘菓総本舗)の動きにも目が離せません。

キャリアコンサルタントとして、地元への誇りや銘菓を残していきたいという志ある方々の背中を押して、両者の良いご縁をつなぎ続けていきたいと気持ちを新たにしました。

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