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アングラー愛用の釣り糸ブランド「シーガー」を、世界に広げる。

クレハ合繊株式会社
代表取締役社長 平野 政弘

更新日:2024年1月10日

1993年、大学を卒業後、株式会社クレハ(旧:呉羽化学工業)に入社。製造、技術、研究、営業などの業務を担当する。2015年には生産本部いわき事業所炭素材料製造部長に就任、2018年には研究開発本部樹脂加工研究所長に就任し、クレハグループでの樹脂加工研究を推進する。2019年、クレハ合繊株式会社に転籍。代表取締役社長として経営を担う。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

釣糸として高い性能を持つフロロカーボン。

クレハ合繊の創業は1963年。親会社である株式会社クレハ(旧:呉羽化学工業)の作るポリ塩化ビニリデン(クレハロン)・ポリ塩化ビニル(ビクロン)などの原料を糸にする生産部門としてスタートしました。

1971年、クレハは世界で初めてフロロカーボン(ポリフッ化ビニリデン)釣糸の開発に成功し、「シーガー(Seaguar)」と命名しました。翌1972年からは「シーガー」の生産を当社が任されることになり、以降、シーガーはアングラー(釣り人)に長く愛されるブランドとなっています。

私がクレハからクレハ合繊に転籍し、社長に就任したのは2019年。初年度の後半からはコロナ禍が起こりました。しかし、人の密集を避けられる釣りは、むしろコロナの渦中でも楽しめるアウトドアレジャーとして世界的にブームとなったのです。

その影響で釣糸がかなり売れて当社もコロナ前比で3割ほど業績を伸ばし、2021年度には、作っても作っても間に合わない状況となったのは思いがけないことでした。

釣糸には大きく分けて三つの素材があります。一つ目がナイロンです。これは柔らかくて扱いやすいのですが、水を吸収するので使用するほど劣化します。二つ目のポリエチレンは強度が強く、軽いという特徴を持っていますが、細い糸を編んでいるため耐摩耗性が低いといわれています。

そして三つ目が、フロロカーボンです。この素材は水を吸わないため耐久性があり、紫外線を浴びてもそれほど劣化しません。岩でこすられても切れにくく耐摩耗性にも優れ、強度もあります。また、フロロカーボンは比較的重いので、水に投入すると素早く下に沈みます。さらに、水中では透明になって魚から見つかりにくくなるなど、たくさんのメリットを持っています。

当社の年商約60億円のうち、かなりの部分がシーガーブランドを含むフロロカーボン糸によるもの。まさに大黒柱として業績を牽引する存在です。

アメリカ・中国・ヨーロッパなど、市場拡大中。

シーガーをはじめとする当社の釣糸は、アメリカ・中国・ヨーロッパなど、世界各国で販売されています。海外では今後、さらに伸びていくと見ています。アメリカでのフロロ糸におけるシェアは2~3割に達していますが、なお成長の余地を残していますし、中国・ヨーロッパ・東南アジアでもいっそう拡大しそうです。

初心者向けから高性能品までシーガーのラインナップ・グレードの幅を広げ、あらゆる属性のお客様に製品を提案していけば、各国市場のシェアは徐々に膨らんでいくでしょう。少子化の日本で大きな伸びは望めないものの、市場縮小の中でシェアを高めることはできると考えています。

アングラー向け釣糸の他に、フロロカーボンの特性を活かした水産事業者向けの釣糸も生産、販売しています。例えば、マグロの「はえ縄漁」などを行う場合の、はえ縄の先端部分に当社の資材が多く活用されているのです。

はえ縄漁は環境負荷の低いエコな漁法なのですが、効率の点で課題があります。そこで、はえ縄漁の課題の解決法を漁業者と一緒になって考えたりもしています。はえ縄漁が活性化すれば、当社の水産資材もさらに利用されるわけです。

日本中で様々な漁業が行われているので、釣糸や水産資材の面で私たちがお手伝いできることはまだまだあるのではないかと考えています。

シーガーを中心に、繊維・成形各事業を推進。

釣りや水産事業と関係のない、高機能樹脂製品の製造も行っています。ギター用の弦や耐熱性のあるマジックテープ、医療用資材や革靴のインソールなど、様々な方面で当社の樹脂製品が活躍しています。

耐久性があり、劣化しにくく、水に強いため、特にインソールは好評を得ています。様々な材料を糸にできるという当社の技術を活かし、新たな素材・市場へのチャレンジは今後も続けていきます。

「繊維事業」に加え、もう一つ展開しているのが「成形事業」です。具体的には、当社の繊維技術・コンパウンド技術を融合させ、新規のインサート成形品(成形品の中に成形品を組込む方法)やスーパーエンプラ(耐熱樹脂)に適合する超精密静電対策部品、生分解性樹脂成形品などを開発・生産するものです。生産した部品は、自動車組立装置、半導体製造装置といった各種産業設備の部材として使用されます。

これらの部品には、糸を使用して強度アップを図るなど、繊維事業で技術を磨いた当社ならではの知恵が様々に散りばめられています。そこが他社に真似のできない競合優位性になっているのです。

繊維事業・成形事業の各事業を推進し、年商80億円を達成することが当面の目標です。そこまで来れば、100億円の壁の突破も現実的になるでしょう。

環境整備に着手し、コミュニケーションを活性化。

社長就任からずっと業績は好調でしたが、当社にはまだまだ成長する力があると見ていました。業務効率や人材教育などの環境面を整備すると事業推進力がさらに高まると思ったのです。

そこで2021年から、経営理念である「Always the best」を実践するためのリニューアルKGCプロジェクトをスタートさせました。これはコンプライアンスや社内規定、マネジメントシステムを総点検し、コミュニケーションに関する意識改善を進め、従業員満足度を高める、引いては顧客満足度の向上を狙いとしたものです。

1年半をかけてプログラムは完了。一通りの目標は達成できました。日々のブラッシュアップが欠かせないコンプライアンスやマネジメントシステムについては、今も継続して取り組んでいます。

また、2022年には地元のプロバスケットボールチーム「宇都宮ブレックス」のオフィシャルスポンサーとなりました。地域貢献を第一と考えたからですが、私自身も中学生の頃バスケ部に所属していたという縁もあります。

これにより、人材採用における知名度アップにつながったのは思わぬ副産物でした。宇都宮ブレックスの試合がSNSなどを通じて拡散される度、当社の名前が就活中の高校生や大学生の目に入りやすくなったようなのです。

それから、従業員への福利厚生の一環として試合のチケットを配るようにしました。すると家族で試合観戦に出かける方も増え、喜んでくれています。スポーツの持つ力の大きさを再認識しました。

SDGsの観点から、はえ縄漁で使った資材をリサイクルするなど、廃プラスチック問題にも取り組んでいます。漁港に回収箱を置いて入れてもらうようにしているのですが、フロロカーボン以外の材料が入ってくると一緒には処理できないので、きちんと分別しなければなりません。

そこに手間がかかると、結果としてリサイクル品のコストが上がることになってしまいます。簡単ではありませんが、漁業関係者の方々に理解を深めてもらい、着実に進めていきたいと思います。

和気あいあいとした雰囲気の中で、活躍してほしい。

当社はユニークなプラスチック加工技術で驚きと感動を提供してきました。今後も他にはない製品を送り出すため、知恵やアイデアを発揮していきたいと考えています。そのためには、新たな人材が欠かせません。

製造系の人材であれば、ケミカルやプラスチック加工の知識が基本となるでしょう。営業系には専門的な理系知識は求めませんが、当社のものづくりにおける強みを理解してもらう必要があります。でないと、特に海外市場を切り拓くのは難しいでしょう。いずれの職種でも学ぶ姿勢が欠かせません。

また、当社ではバーベキュー大会やクラブ活動も盛んで、私もテニス、野球 、マラソン、バスケなどいろんなクラブに顔を出し、一緒に汗を流しています。これらの活動により従業員の協調性も育まれていると感じています。

和気あいあいとした雰囲気は、当社の長所の一つ。おかげで、みんなが居心地良く、毎日努力できるのだと思います。この社風が馴染む人だと、入社してからすぐに力を発揮できると思います。

経営理念の「Always the best」とは、常に全力を尽くし、ベストな価値を提供し続ける、ということ。この理念は、当社人事制度の行動評価の基準にもなっています。和気あいあいとした社風の中で、一緒にベストを尽くして頑張りませんか。

編集後記

コンサルタント
簑輪 翔太

今回のインタビューで改めてクレハ合繊という会社の凄さを感じました。クレハグループの中でも優秀な業績を誇っている分、期待も大きい。そんな中でもしっかりと業績を残しているのは、同社が持つ製造技術、そして平野社長の堅実な経営と社員を大事にする想いによるものだと感じました。

同社はオリジナル技術により高品質で付加価値の高い商品を多く世に送り出しています。品質にこだわり、ユーザーのニーズにしっかりと応える商品だからこそ世界のアングラーに評価され、愛用されています。

これからも多くの人に愛される高付加価値商品を生み出してくれるだろうと、さらなる成長の可能性を感じさせるインタビューとなりました。

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