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「管屋」として進化する。地味に、誠実に、新しい価値を創る。

栃木精工株式会社
代表取締役社長 川嶋 大樹

更新日:2025年10月08日

1978年、栃木県栃木市出身。東京工業大学大学院 分子生命科学専攻 修了後、製薬会社に入社。2006年に家業である栃木精工へ入社し、2010年に31歳で代表取締役社長に就任。就任以来、「管加工技術」を核に事業の多角化と地域貢献を推進している。また、地元栃木への強い想いから、本業のほか社会貢献活動「栃木 JIMINIE俱楽部」の運営、栃木市主催のスポーツイベントへの協賛、さらにはラジオ番組「ナンバーX(CRT栃木放送)」のパーソナリティなど、多方面で地域を盛り上げる活動を行っている。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

「管屋」の精神はそのままに、新たな挑戦へ。

当社は1948年に創業して以来、注射針やカテーテルなどの医療機器や精密金属パイプの製造・販売を手がけてきました。2010年に社長に就任して以来、私がまず取り組んだのは「栃木精工は何者なのか」を再定義することでした。

祖父の代から続く会社を受け継ぐ以上、ただ維持するのではなく、未来に向けての進化が求められる。たどり着いたのは、「私たちは『管屋』である」という答えでした。そこに、自分たちの本質的な価値があると確信したのです。

この「再定義」は単に理念の言語化ではなく、事業方針にも直結する重要な決断でした。それまでのOEM主体のスタイルから脱却し、自社の思想と技術を込めた製品を創る「メーカー」への転換。「どう変わるか」を決めるには、「何のために存在するのか」を明確にすることが不可欠でした。

企業としてのアイデンティティを確立することが私の最初の大きな仕事でした。2020年に3カ年計画をスタートさせ、自社ブランド「JIMINIE(ジミニー)」の展開や新規事業への参入に取り組み、明確な戦略を立てて進めてきました。

あれから4年が経ち、私たちは今、次のフェーズに踏み出しています。ものづくりを通じて社会に貢献するという想いはそのままに、領域や手法を柔軟に進化させていく。そのバランスを大切にしながら、今後も「管屋」の精神を軸に歩みを進めます。

「地味にいい」という合言葉に込めた哲学。

自社ブランドを展開するうえで、私たちは「地味にいい」というコンセプトを掲げました。これは、派手ではないけれど、実直で確実に役に立つ存在を目指すという意思表明です。

華やかさや話題性ではなく、本当に価値あるものを届けたいという強い想いがあります。良心的な価格、安全性、そして使いやすさ。私たちはそれらを「親切設計」と名付け、使い手にも作り手にも優しいものづくりを追求しています。

製品開発はドクターとの共同設計を通じて実現され、医療現場のリアルな声を反映しています。たとえば、設計の段階から使用者の手順をシミュレーションし、誤使用を防ぐ仕組みを取り入れるなど、小さな工夫を積み重ねています。

この姿勢が「地味にいい」の真髄であり、会社全体の文化としても根づいてきました。地味であることは、派手であることよりも、むしろ難しい選択かもしれません。しかし、そこに私たちの誇りがあります。

目立たないけれど、必要とされる存在。それこそが、私たちが目指す「いい会社」のかたちです。

医療からバイオへ、進化する「管」の可能性。

医療機器の開発では、これまで通り現場のドクターとの協働を大切にしながら、東京大学発スタートアップとの連携や技術出資による製品開発にも挑んでいます。

さらに、国産医療機器の供給体制を支える「メディカルコンソーシアム」にも参画し、多様な企業との連携を通じて、生産・供給インフラの一端を担っています。

災害時にも使える電源不要の人工呼吸器や、網膜の血管に薬剤を届ける超極細の注射針(0.05ミリ)など、「人の命を守る製品」の開発・量産にも力を注いでいます。

これらの取り組みはすべて、私たちの社是である「創意によって世界人類の福祉に貢献する」という言葉を、現実のかたちに変えていく道だと信じています。

また、医療機器製造から一歩進み、今ではバイオ分野への展開も進んでいます。完全閉鎖型のチューブユニットを核に、免疫細胞療法や再生医療に用いられる製品を手がけるようになりました。

東京大学発のスタートアップと連携し、資本業務提携にも取り組んでいます。この進化のきっかけとなったのは、展示会でのひとつの出会いでした。

私たちの製品を見た企業が、「これができるなら、こんなものは作れますか?」と声をかけてくれたのです。その瞬間、今まで積み重ねてきた技術が新しい形で花開く可能性を感じました。

私自身もバックグラウンドが分子生命科学だったこともあり、バイオ分野への関心は強くありましたが、そこに技術とニーズが合致して新たな市場が拓けた感覚でした。

裏方であり続ける強さ。素材技術の最前線へ。

こうして医療・バイオの領域で新しい挑戦を続ける一方で、創業以来培ってきたもうひとつの磁性材料事業も進化しています。磁性材料事業では、空飛ぶクルマやEV向けの最先端コア素材「パーメンジュール」への展開も始まっています。

これまで培ってきた熱処理技術を活かし、従来よりも高性能・高価格帯の素材を手がけるようになりました。焼きなましという工程を通じて金属の結晶構造を整えることで、極めて高い磁気特性を実現するのが私たちの技術です。

この取り組みも、元は稼働率の向上を目的とした「空き時間の有効活用」から始まりました。既存の設備をもっと活かせないかという視点が新たな事業機会を生み出したのです。

今では、大電流を扱う分野や航空宇宙、先端電子部品の分野など、高い信頼性が求められる市場からの引き合いも増えています。

私たちは「主役ではないが、いなければ成立しない部品」を提供する存在です。目立たずとも、存在感がある。そんな企業ポジションを築くことが今の目標です。

裏方であることを誇りに思い、技術で社会を支える。この意識が、ものづくり企業としての私たちの根幹を形成しています。

「休日を増やす」ことが経営課題になる時代。

いま私たちが本気で取り組んでいるテーマのひとつが、「年間休日の増加」です。人材の採用と定着は、いまや製造業にとって最大の経営課題とも言えます。

休日を増やすというのは簡単なことではありませんが、生産性の見直しや付加価値の高い製品づくり、さらには価格改定による利益確保を通じて、実現への道筋を描いています。

これは単なる福利厚生ではなく、企業の存続と持続的成長に直結する戦略そのものです。そのために私たちは、「現場の効率化」だけでなく、「製品の売り方」や「価値の伝え方」も積極的に変えていかなければなりません。

同じような製品でも、流通によっては何倍もの価格がつくケースもあります。私たちが生み出す価値を正当に評価していただき、それを従業員へと還元できる構造をつくる。それが、長く安心して働ける環境づくりにつながると考えています。

そして、どんな仕組みよりも大切なのが「価値観が合うかどうか」です。だからこそ、私自身も地元ラジオ局でパーソナリティを務めながら、会社や業界の魅力を発信しています。

「地味に、でも確かにいい会社がここにある」と知ってもらうこと。それが、未来の仲間との出会いを生むと信じています。

未来の方向性を描き、人が集う会社へ。

私の役割は、社外とのつながりを広げ、社内の行動範囲を拡張し、未来の地図を描くことだと考えています。

その活動が、5年後・10年後のビジネスにつながると信じているからです。たとえ今すぐ売上に直結しなくても、人とのご縁や情報との接点を大切にしています。

今後目指すのは、「市場価値の高い人材が自然と集まる会社」。社員全員が誇りを持って働き、社外からも「あの会社で働いてみたい」と思われるような存在でありたい。そして同時に、社員一人ひとりが「ここでずっと働いていたい」と思えるような組織文化を育てていきたいです。

外からの評価と中からの満足、その両立こそが、これからの企業価値を決めると信じています。

社員が生き生きと働き、その姿が次の人材を惹きつける。そんな好循環をつくるために、私たちは今、未来に向けた地図づくりを続けています。

編集後記

チーフコンサルタント
高山 綾美

川嶋社長には2021年4月にもインタビューをさせていただきました。当時はまだ展開前だった「JIMINIE」ブランドなど、新しい挑戦に向かう姿はエネルギッシュでありながらも、根底にある「地味でも本当にいいものをつくり続けたい」という信念は変わっていませんでした。

事業戦略を語るときの真剣なまなざしと、社員や地域との関係を語るときの柔らかな笑顔とが同居しており、「攻め」と「守り」を併せ持った経営者だと感じました。

またしばらく経ったらインタビューをさせていただく約束をしています。そのときには、また新しい挑戦の話を聞かせていただけるはずです。

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