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機体の設計から生産技術、ITまで担う。設計したものが空を飛ぶ仕事。
富士エアロスペーステクノロジー株式会社
代表取締役社長 小林 孝行
1962年生まれ、栃木県出身。大学では機械系を専攻し、複合材の研究に携わったことをきっかけに、当時その最先端分野であった航空機開発の道へ。1987年、関東で複合材技術を活かせる会社として富士重工業株式会社(現:株式会社SUBARU)へ入社し、以来一貫して航空機の技術部門でキャリアを積む。2017年、SUBARU製の機体の整備を手がけるグループ会社へ転出。2023年に富士エアロスペーステクノロジー株式会社へ移り、現在は代表取締役社長を務める。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
この記事でわかること
- SUBARUグループで航空機開発を支える富士エアロスペーステクノロジー
- ボーイング777・787の中央翼の構造設計を一部担う実績
- 3機種の設計を手がけた小林社長が語る、初飛行の重み
- 設計データから製造手順までをITでつなぐ構想
- eVTOLや宇宙も視野に、次の仕事をつくる社員への期待
設計を担う会社として誕生。若手とベテランが技術を築いた。
富士エアロスペーステクノロジー株式会社は、航空機の設計と生産技術、そして情報システムを担うエンジニアリング会社です。株式会社SUBARUの航空宇宙カンパニー(設立当時は富士重工業株式会社の航空宇宙事業本部)を顧客とし、同グループの一社として1994年に設立されました。私は2023年にこの会社へ移り、社長を務めています。
当社は航空機の設計業務の一部を担うために設立され、設計を任せられるだけの技術力を備えることが当初の目標でした。新しく人を採用して、いきなり「設計ができる会社」を目指すのは容易ではありません。そこで当初は、富士重工業からの出向者と新しく入った若手が一緒に設計に取り組み、技術を蓄積してきました。
部門も段階的に増えていきました。航空機の開発は概念設計から始まり、計画設計、製造設計、生産設計と続きます。設備や部品の加工方法、組み立て、工場設計、輸送まで考えるには、生産技術の知識が欠かせず、生産設計までできなければ、一連の業務は担えません。そう考え、生産技術まで兼ね備える会社になりました。
そして、もともと富士重工業の航空宇宙事業本部の中にあった情報システム機能が当社へ移ってきたことで、設計から生産技術、ITまでを担うようになりました。
複合材から航空機へ。3機種の開発を支えた地道な仕事。

私自身が航空機の仕事に携わるきっかけになったのは、大学で学んだ複合材でした。複合材の最先端といえば航空機で、その仕事に携われる関東の会社が富士重工業だったのです。1987年に入社して以来、航空機の技術部門でキャリアを積み、固定翼機などの開発に携わってきました。
航空機の開発は基本設計から詳細設計、機体の試作と試験を経て、量産設計へと進みます。最新技術を取り入れるために開発だけで10年を要するケースもあり、その後の製造と配備、運用まで含めると、一つの機種に約30年かかります。
私が入社した当初は、一生のうちに一機、多くて二機開発できればいいと言われていました。私は運が良かったのか、複数の機体開発に関わることができ、そのうち三機種では実際に設計を手がけました。
航空機の開発には華やかな印象があるかもしれませんが、開発の機会はそれほど多くありません。製造中や整備中の機体に不具合があれば修理し、部品の位置や形状、その形になっている理由を一つずつ覚えていく。そうした地味な仕事を積み重ね、機体がどのようにつくられているのかを知って、初めて設計ができるのです。
設計、加工、ロボット制御まで。二部門がつなぐ航空機づくり。
現在は技術部(航空機の機体設計、生産設計を担う)、そして情報システム部の二つの部門があります。正社員は100名を少し超える規模です。2024年には創立30周年を迎えました。
航空宇宙カンパニーは計画や概念設計を担い、当社はその構想を実際の部品へ落とし込むためのモデリングを担当します。CADで設計したデータをCAMによる加工につなげ、製造現場で形にするところまで支援しています。製造現場では機械加工やロボット制御のためのプログラミングも必要になります。
工場にはさまざまな機械があり、部品の加工だけでなく、燃料タンクの密閉処理を行うロボットの制御も当社が担っています。設計、生産技術、プログラミングを分けず、製造に必要な技術を一連でつなげられることが、当社の強みです。
こうした業務を30年にわたって積み重ねるなかで、構造設計のノウハウも社内に蓄積されてきました。例えば、ボーイング社の旅客機の機体開発に参画するメンバーとして、富士エアロスペーステクノロジーの社員が名指しで求められることもあります。同じSUBARUグループの中で専門性を高めてきた結果だと考えています。
当社は機体そのものを製造しているわけではありませんが、製造現場へ行き、治具を改善したり、加工方法を変えたりするなかで専門性が培われてきました。
現場からのフィードバックを受けて、設計側が部品の形状や材料を見直すこともあります。溶接していた部品を一体成形に変えることもありました。設計と生産技術の間を情報が行き来し、部品の形やつくり方が変わっていくのです。
関わった機体が空を飛ぶ。初飛行を見届けるまでの責任と達成感。

設計から生産技術まで一連で担う仕事の中で、構造設計は航空機の安全を支える領域の一つです。設計した構造がさまざまな要求を満たし、安全に飛べることを証明していきます。
当社が蓄積してきた構造設計の一例が、左右の主翼と胴体をつなぐ中央翼です。飛行中、主翼には機体を持ち上げる上向きの力が、300~400人が乗る胴体には下向きの力がかかります。中央翼の設計では、こうした荷重を確実に受け止めながらも機体の重量を軽くすることが求められます。
さらに、コックピットから尾翼に取り付けられたエレベーター(機首を上下に動かす舵)やラダー(左右方向の舵)へ指令を送る経路の一部も、中央翼を通ります。複数の条件を同時に満たす設計が必要です。
ボーイング777や787では、この中央翼の設計をSUBARUが担い、そのうち構造の一部を当社が担当しています。機体開発の中心は米国シアトルにあり、当社のメンバーも現地で開発に参画してきました。777や787の中央翼は、宇都宮でつくっても工場から運び出せないほどの大きさです。そのため、別の工場で組み立て、船や専用の航空機で送り出します。
旅客機のような大きな機体では多くても月産十数機、国内の開発機体では年間数機です。製造中に部品の不具合が見つかった場合は、その部品を修理して使い、どのような修理を施したかを機体ごとに管理します。部品点数は、自動車の約100倍にあたる300万点にのぼります。
こうしてつくられた機体を飛ばす前には、主翼や胴体などに負荷装置を取り付けて荷重をかける全機の強度試験を行います。この試験をはじめ、必要な手順を一つずつ積み重ね、安全に飛べることを証明しなければなりません。
長い開発工程を経て迎える初飛行の日は、ひときわ特別です。非常に感動的ではあるのですが、実際に関わった技術者は祈るような気持ちでいます。離陸してから無事に着陸するまでは、安心できません。戻ってきた機体を見て初めて「よかった」と思うのです。
増える仕事に、人と技術で応える。設計と製造をデータでつなぐ。
航空宇宙業界は右肩上がりで、親会社である株式会社SUBARU航空宇宙カンパニーの需要拡大も期待されるため、今後、当社が担う仕事も増えていくと見ています。求められる仕事量に応えるだけでなく、技術面でも期待に応えなければなりません。正社員約100名の体制をさらに広げ、人材の確保と技術力の向上を進めていきます。
同時に、航空機の設計を取り巻く環境も大きく変化しています。私が入社した当時と比べ、設計ツールは進化し、AIの登場によって設計の進め方も変わってきました。軽さと強さを両立した複合材は、30~40年前から航空機の主翼などに使われ始め、今では一般的に用いられています。こうした設計手法や素材の進歩を取り込み、当社の技術として確立する必要があります。
材料や設計手法だけでなく、設計から製造までの仕事の進め方も変わろうとしています。当社が目指しているのは、図面と作業手順を別々に管理するのではなく、設計データから製造手順までをITでつなぎ、一貫して管理することです。AIを組み合わせれば、作業手順をつくる工程の自動化も視野に入ります。
工場では、部品の所在や進捗、完成予定、搬送先、その後の使用状況までを把握する必要があります。設計、生産技術、ITの技術者が社内にそろっているからこそ、設計現場と工場の双方を理解したシステムをつくれると考えています。
コロナ禍では航空業界が冷え込み、事業環境が大きく変わり得ることを経験しました。航空宇宙カンパニーを中心にしながらも、世の中の流れや自分たちの技術水準にも目を向けておく必要があると考えています。
シアトル、eVTOL、宇宙へ。次の仕事は、自分たちでつくる。

設立時にSUBARUから来た社員は少なくなり、いまはプロパー(自社採用)の社員が中心です。これからは、自分たちで会社の進む方向を考えてほしい。未来は自分たちでつくっていくものであり、誰かから与えられるものではありません。
私自身も、中堅社員に設計の仕方や考え方を伝える講習を行っています。技術の土台となる考え方を引き継ぎ、その先の会社を新しく入った人たちがつくっていくことを願っています。
技術者として経験を広げられる機会もあります。ある社員は複数の機種を担当し、開発拠点のあるシアトルに約2年間滞在しました。飛行機が好きな人にとっては、非常に羨ましいキャリアだと思います。一つの機種や国内の仕事に限らず、さまざまな開発現場で経験を積めます。
経験を積んだ社員には、自分たちで次の仕事をつくってほしいと考えています。今はまだ、社外でも通用する技術力をさらに高めている段階ですが、将来的には現在の航空機設計やITにとどまらず、技術応用の可能性としてeVTOL(電動で垂直に離着陸する機体)や宇宙などにも目を向けていきます。
自社の技術をどこに応用できるのか、その分野に事業としての可能性があるのかを見極め、新しい仕事につなげてほしいです。
半導体やソフト、AIの会社に人気が集まる時代です。それでも、動くものをつくるのは楽しいと私は思います。経営を担う今でも、できることなら、自分で設計して物をつくり、不具合が起きれば計算して確かめる仕事をしたいと思うほどです。
次の世代にも、自ら設計し、不具合に向き合いながら形にしたものが空を飛ぶまでの経験と、その達成感を味わってほしいですね。